深刻化する印刷業界の人手不足に、有効な一手となり得るのが特定技能制度です。
この記事では、外国人材を受け入れるための具体的な手順と費用を、初めての方にもわかるように解説します。
新たに特定技能の対象分野となった印刷業で、自社が受け入れ企業になるための要件、採用までにかかる費用の内訳、そして手続きの全体像まで、知っておくべき情報を網羅しました。
「何から始めればいいかわからない」「手続きが複雑そう…」そんな不安をお持ちでも大丈夫です。
この記事を読めば、採用計画を立てるための確かな一歩となります。
目次
これまで印刷業界では、人手不足を解消する手段が限られていました。
しかし、一定の専門性と技能を持つ外国人材を受け入れるための在留資格「特定技能」の対象に、2024年度から新たに「印刷・製本」分野が追加されました。
この変更は、長年業界が抱えてきた深刻な人手不足に対応するものです。
具体的には、令和6年度から従来の3つの業務区分に7区分が加わり、より多くの製造業で外国人材が活躍できるようになりました。
制度 | 業務区分 |
---|---|
旧制度(令和5年度まで) | ・機械金属加工 ・電気電子機器組立て ・金属表面処理 |
新制度(令和6年度以降) | ・機械金属加工 ・電気電子機器組立て ・金属表面処理 ・紙器・段ボール箱製造 ・コンクリート製品製造 ・陶磁器製品製造 ・紡織製品製造 ・縫製 ・RPF製造 ・印刷・製本 |
この制度が新設されたことで、貴社のような印刷会社が技能を持った人材を直接雇用し、事業を継続・発展させていくための新たな道が開かれました。
特定技能「印刷・製本」分野で外国人材が従事できる業務は、大きく分けて「印刷職種」と「製本職種」の2つに区分されています。
貴社の事業内容が、これらの業務に該当するかをご確認ください。
これらの職種では、中核となる専門的な作業はもちろん、それに付随する幅広い関連業務まで任せることが可能です。
具体的にどのような業務を担ってもらえるのか、以下の表で確認しましょう。
業務区分 | 従事できる主たる業務の具体例 |
---|---|
印刷職種 | DTP、CTP出力、オフセット印刷機の操作、表面加工、型抜き |
製本職種 | 断裁、折り、丁合、中綴じ、無線綴じ、紙器や段ボール箱の製造 |
さらに、上記の主たる業務に加えて、どちらの職種でも共通して原材料の運搬、機械の清掃や保守管理といった業務にも従事してもらえます。
つまり、単に一工程のオペレーターとしてだけでなく、現場全体の作業を柔軟にサポートしてくれる人材として活躍を期待できるのです。
特定技能外国人は、印刷や製本といった中心的な業務だけでなく、それに付随する幅広い関連業務にも従事できる点が大きな特徴です。
この制度を活用することで、現場の日本人社員がより専門性の高いコア業務に集中できる環境を整え、生産性向上にも繋がります。
これまでベテラン社員が対応していた印刷物の運搬や機械の簡単な清掃なども任せられるため、現場の負担を大きく軽減できます。
具体的にどのような業務を任せられるのか、以下の10の業務例をご覧ください。
業務分類 | 具体的な業務内容の例 |
---|---|
プリプレス(印刷前工程) | DTPデータの修正・確認、CTP刷版の出力 |
印刷 | オフセット印刷機やデジタル印刷機の操作・監視 |
ポストプレス(後加工) | 断裁、折り加工、抜き加工、表面加工(ラミネート等) |
製本 | 丁合、無線綴じ・中綴じなどの製本機操作 |
品質管理 | 印刷物の色調確認、汚れ・傷の検品、丁合順序の確認 |
原材料・資材管理 | 用紙やインキの受け入れ、在庫管理、現場への搬送 |
機械の準備・段取り | 印刷機の版交換、インキ補充、用紙のセット |
前後工程の補助 | 印刷後の乾燥作業、製本工程への製品移動 |
清掃・保守管理 | 印刷機周りの清掃、日常的なメンテナンス作業 |
梱包・出荷 | 完成した製品の梱包、出荷準備、伝票整理 |
このように、専門的なスキルが求められる主業務から、現場を支える補助的な作業まで、多岐にわたる業務を任せられます。
貴社の現場で特に人手が足りていない工程を補う形で、外国人材に活躍してもらうことが可能です。
特定技能制度と技能実習制度は、外国人材を受け入れる点は共通していますが、制度の根本的な目的が異なります。
技能実習が日本の技術を開発途上国などへ移転させる「国際貢献」を目的とするのに対し、特定技能は国内産業の人手不足を解消するための「労働力の確保」を目的としています。
この目的の違いから、受け入れる人材に求められる能力や、働き方のルールにも大きな差があります。
特定技能外国人は、採用時点である程度の専門性と日本語能力を備えた即戦力として期待される一方で、同一の業務区分内であれば本人の意思で転職が可能です。
項目 | 特定技能1号 | 技能実習制度 |
---|---|---|
目的 | 人手不足の解消(労働力) | 国際貢献(技能の移転) |
求められる能力 | 一定の専門技能・日本語能力(即戦力) | 基本的に問われない(未経験から習得) |
転職の可否 | 同一分野内であれば可能 | 原則として不可 |
受入れ企業による支援 | 支援計画の策定・実施義務あり(登録支援機関へ委託可) | 監理団体による監理・支援 |
在留期間(通算) | 最長5年 | 最長5年 |
育成を前提とする技能実習とは異なり、特定技能は貴社の即戦力となる人材を直接雇用できる制度です。
ただし、外国人材がより良い条件を求めて転職する可能性も考慮し、長く定着してもらうための魅力的な職場環境を整えることが重要になります。
特定技能2号とは、熟練した技能を持つ外国人のための在留資格です。
在留期間の更新に上限がなく、要件を満たせば家族の帯同も可能になるため、企業にとっては長期的な人材確保につながる重要な資格といえます。
残念ながら、2024年4月に新設された「印刷・製本」分野は、現時点では特定技能2号の対象にはなっていません。
そのため、この分野で働く特定技能外国人は、在留期間が通算で最長5年となる「特定技能1号」での就労に限られます。
比較項目 | 特定技能1号 | 特定技能2号 |
---|---|---|
在留期間 | 通算で上限5年 | 上限なし(更新制) |
技能レベル | 一定の専門性・技能 | 熟練した技能 |
家族の帯同 | 原則として不可 | 要件を満たせば可能(配偶者・子) |
対象分野(印刷・製本) | 対象 | 対象外 |
将来的に制度が見直され、対象分野が拡大される可能性はあります。
しかし、まずは特定技能1号として優秀な人材を受け入れ、自社で長く活躍してもらえるような職場環境を整えることが、人手不足解消への着実な一歩となります。
特定技能外国人を受け入れる企業は「特定技能所属機関」と呼ばれ、国が定めた基準を満たす必要があります。
様々な要件がありますが、印刷業で特に重要なのは、特定の業界団体に所属していることです。
これは法律で定められた必須条件となります。
まずは、貴社が以下のいずれかの団体に所属しているか、ご確認ください。
印刷・製本業で所属が必須となる団体 |
---|
全日本印刷工業組合連合会 |
全国グラビア協同組合連合会 |
全日本製本工業組合連合会 |
これらの団体への所属に加えて、経済産業省が設置する「受入れ協議・連絡会」への加入や、採用する外国人材への支援体制を整えるといった、分野共通の義務も果たさなくてはなりません。
最初のステップとして、自社がこれらの要件をクリアしているかを確認することが、受け入れ実現に向けた確実な一歩となります。
受け入れの準備が整ったら、次は実際に人材を探す段階です。
自社に合う人材を見つける方法はいくつかありますが、初めて外国人材を採用する場合は、人材紹介から各種手続きまでを一貫してサポートしてくれる「登録支援機関」を頼るのが最も確実な方法です。
人材を見つけるルートは、大きく分けて国内にいる外国人を採用する方法と、海外から新たに呼び寄せる方法の2つが存在します。
国内採用は元技能実習生や他の企業で働いていた特定技能外国人が対象となり、比較的スピーディーな採用が可能です。
一方で海外採用は、時間はかかりますが、より多くの候補者の中から選考できる利点があります。
項目 | 国内採用 | 海外採用 |
---|---|---|
主な対象者 | 技能実習2号修了者、特定技能外国人(転職者) | 海外で実施される試験の合格者 |
メリット | 面接がしやすく人柄を把握しやすい、採用までの期間が短い | 募集対象が広く、多くの候補者から選考できる |
デメリット | 採用の競争率が高い場合がある、希望する人材が見つかりにくい | 採用決定から来日まで時間がかかる、現地での面接調整が必要 |
期間の目安 | 2ヶ月〜4ヶ月程度 | 4ヶ月〜8ヶ月程度 |
どちらの方法を選ぶべきか迷う経営者様も多いですが、多くの企業が実績のある登録支援機関と相談しながら採用活動を進めています。
自社だけで全てを抱え込まず、まずは信頼できるパートナーを探すことが、採用を成功させるための近道と言えます。
採用する外国人材は、印刷・製本分野の業務を遂行できる専門知識と、現場でのコミュニケーションに必要な日本語能力の両方を証明しなければなりません。
この基準を満たしているかどうかは、国が定める2種類の試験の合格をもって判断されます。
具体的には、技能レベルを測る「印刷・製本分野特定技能1号評価試験」と、日本語レベルを測る試験のいずれかに合格している必要があります。
特に技能評価試験は、貴社が求める業務内容に応じて「印刷職種」と「製本職種」のいずれかを選択し、合格した人材を採用することになります。
要件 | 求められる試験 |
---|---|
技能要件 | 印刷・製本分野特定技能1号評価試験(印刷職種または製本職種) |
日本語能力要件 | ・国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)合格 ・日本語能力試験(JLPT)N4以上合格 |
ただし、過去に日本で印刷または製本分野の技能実習2号を良好に修了した人材を採用する場合は、これらの試験が免除されます。
そのため、すでに日本での就労経験がある即戦力人材の採用も視野に入れることが可能です。
採用する人材が決まったら、雇用契約を結びます。
「支援計画」とは、特定技能外国人が日本での仕事や生活をスムーズに始められるように、企業が実施すべき支援内容をまとめた計画書のことです。
このとき、給与や待遇は必ず日本人従業員と同等以上の水準にする必要があります。
同時に、法律で定められた10項目の支援内容を盛り込んだ支援計画を作成しなくてはいけません。
支援項目 | 具体的な内容例 |
---|---|
事前ガイダンス | 労働条件や業務内容、日本での活動内容に関する事前の説明 |
出入国時の送迎 | 空港などへの送迎 |
住居確保・生活契約支援 | 社宅の提供や賃貸物件探しの補助、銀行口座開設や携帯電話契約の支援 |
生活オリエンテーション | 日本のルールやマナー、公共交通機関の利用方法、災害時の対応などの説明 |
公的手続きへの同行 | 役所での住民登録や社会保障・税に関する手続きの補助 |
日本語学習の機会提供 | 日本語教室の情報提供や日本語学習教材の提供 |
相談・苦情への対応 | 職場や生活上の悩みについて、外国人が理解できる言語での相談対応 |
日本人との交流促進 | 地域のイベントへの参加案内や社内交流会の企画 |
転職支援 | 会社の都合で解雇する場合の、次の仕事探しの手伝い |
定期的な面談 | 支援責任者による定期的な面談の実施と、労働基準監督署などへの通報 |
これらの雇用契約や支援計画の作成、そして計画の実施は、初めて外国人材を雇用する企業にとっては負担が大きいものです。
そのため、多くの企業は手続きや支援の専門家である「登録支援機関」に委託しています。
雇用契約の締結と支援計画の作成が完了したら、いよいよ最終段階である出入国在留管理庁への手続きに進みます。
この申請は、採用する外国人が海外にいるか、日本国内にすでに滞在しているかによって種類が異なります。
海外から新たに呼び寄せる場合は「在留資格認定証明書交付申請」を、留学生や技能実習からの移行者など国内にいる人材を採用する際は「在留資格変更許可申請」を行うことになります。
申請には、申請書のほかに雇用契約書や支援計画書の写しなど、およそ20種類以上の専門的な書類を不備なく揃える必要があります。
これらの書類を管轄の出入国在留管理庁へ提出し、審査を受けます。
審査期間は通常1ヶ月から3ヶ月程度かかりますので、採用計画に合わせて早めに準備を始めましょう。
申請の種類 | 対象となる外国人材 |
---|---|
在留資格認定証明書交付申請 | 海外に居住している人材を新たに日本へ呼び寄せる場合 |
在留資格変更許可申請 | 留学生や技能実習生など、すでに他の在留資格で日本に居住している人材を採用する場合 |
無事に許可が下りれば、特定技能外国人として貴社での就労をスタートできます。
申請手続きは非常に複雑で専門知識も求められるため、多くの企業が行政書士や登録支援機関といった専門家に書類作成や申請の代行を依頼しています。
特定技能外国人を採用する際、多くの企業が人材紹介会社や登録支援機関といった専門家の力を借ります。
その際に支払うのが成功報酬型の手数料です。
自社で候補者を探し、複雑な手続きをすべて行う手間や時間を考慮すると、専門家への依頼は有効な手段です。
海外から来た方を一人雇う場合、紹介会社に支払うお金は、おおよそ20万円から30万円が目安です。特に、すでに日本で暮らしているベトナム人特定技能生を紹介してもらうと、費用が安くなります。
この金額には、候補者の募集から面接の設定、内定に至るまでの人材紹介サービスや、採用後に必要となる支援計画の作成サポートなどが含まれることが一般的です。
依頼する機関やサービス範囲によって費用は変動するため、具体的な内訳を確認することが大切になります。
項目 | 費用の目安(1名あたり) | 主な内容 |
---|---|---|
人材紹介手数料 | 200,000円~300,000円 | 候補者の募集、スクリーニング、面接設定 |
支援計画作成費用 | 50,000円~100,000円 | 出入国在留管理庁へ提出する支援計画の作成 |
書類作成・翻訳料 | 20,000円~50,000円 | 雇用契約書や各種申請書類の多言語対応 |
これらの費用は初期投資となりますが、将来の事業を担う貴重な人材を確保するためのコストと捉えることができます。
複数の機関から見積もりを取り、自社の状況に合ったサービスを慎重に選ぶことをお勧めします。
特定技能外国人を採用するための在留資格申請は、専門的な書類が多く手続きも複雑です。
そのため、書類作成と申請の専門家である行政書士に代行を依頼するのが一般的です。
行政書士に依頼する場合、海外から呼び寄せる「在留資格認定証明書交付申請」は約10万円から20万円、国内にいる人材を採用する「在留資格変更許可申請」は約8万円から15万円が費用相場となります。
会社の状況や申請内容の難易度によって費用は変動します。
申請の種類 | 費用の目安(1名あたり) |
---|---|
在留資格認定証明書交付申請(海外在住者) | 10万円~20万円 |
在留資格変更許可申請(国内在住者) | 8万円~15万円 |
これらの費用は発生しますが、専門家である行政書士に依頼することで、煩雑な手続きを正確かつ迅速に進めることが可能です。
結果として、担当者様の負担軽減と時間の節約につながります。
海外に住んでいる人材を採用する場合、国内在住者の採用にはない渡航関連の費用が発生します。
これらの費用は採用コストの大きな部分を占めるため、事前にどのような費用がかかるのかを把握しておくことが大切です。
例えば、ベトナムやフィリピンなどアジア圏から1名を採用する場合、航空券代や現地での手続き費用を含め、合計で10万円から20万円程度が追加で必要になることが一般的です。
具体的な費用の内訳は、以下の表を参考にしてください。
項目 | 費用の目安 | 備考 |
---|---|---|
航空券代 | 5万円~15万円 | 出身国、渡航時期、利用する航空会社により変動 |
ビザ申請関連費用 | 1万円~3万円 | 現地での査証(ビザ)申請手数料や健康診断の実費 |
送り出し機関への費用 | 0円~数十万円 | 国による。登録支援機関の費用に含まれる場合も |
現地での採用活動費 | 実費 | 現地で面接会などを実施する場合に発生 |
これらの費用は、利用する登録支援機関との契約内容によって、どこまでが手数料に含まれているかが異なります。
後から想定外の出費で慌てないよう、契約を結ぶ前に費用の内訳とどちらが負担するのかを詳細に確認することが不可欠です。
特定技能外国人を受け入れる企業には、職場や日常生活における支援計画の実施が義務付けられています。
この支援業務の全て、または一部を「登録支援機関」に委託する場合に、毎月継続して発生するのが支援委託料です。
費用相場は、外国人1名あたり月額2万円から3万円程度で、登録支援機関の支援内容によって変動します。
委託できる支援内容は多岐にわたりますが、主に以下のようなものが含まれます。
支援内容の例 | 概要 |
---|---|
定期的な面談の実施 | 労働環境や生活上の問題点を早期に発見し解決 |
相談・苦情への対応 | 仕事や生活の悩みに多言語で対応する体制の提供 |
各種行政手続きの補助 | 住居の契約や役所での手続きなどへの同行・支援 |
日本語学習機会の提供 | 日本語学校や学習教材に関する情報提供 |
地域社会との交流促進 | 地域のイベント参加などを促し、孤立を防ぐ |
自社で全ての支援体制を整えるのが難しい場合、専門知識を持つ登録支援機関に委託することで、企業の負担を大幅に軽減できます。
結果として、受け入れ担当者は本来の業務に集中することが可能になります。
採用時の初期費用とは別に、特定技能外国人を雇用した後は、継続的に発生する最も大きなコストが給与や各種保険料です。
これらは日本人従業員を雇用する場合と同様に、毎月発生する費用となります。
特定技能外国人の給与は、同等の業務に従事する日本人従業員と同等以上の水準に設定することが法律で定められています。
加えて、健康保険や厚生年金保険といった社会保険、雇用保険や労災保険などの労働保険への加入も企業の義務です。
これらの費用は、日本人を雇用する場合と基本的に変わりません。
費用の種類 | 概要 |
---|---|
給与(賃金) | 日本人従業員と同等以上の水準が必須 |
社会保険料 | 健康保険料、厚生年金保険料(会社と本人で折半負担) |
労働保険料 | 雇用保険料、労災保険料(会社負担が主) |
住民税の特別徴収 | 前年の所得に応じて発生する住民税を給与から天引きして納付 |
その他諸手当 | 通勤手当や住宅手当など、会社の就業規則に準ずる手当 |
これらの費用は、人材が定着して長く働いてもらうための基盤となります。
事前に資金計画に組み込み、安定した雇用体制を整えることが重要です。
特定技能制度を活用する最大のメリットは、専門的な知識と技能を持つ即戦力人材を確保できる点にあります。
長年、人手不足や若手人材の定着に悩んできた印刷業の企業にとって、これは事業の継続性を左右する重要な要素です。
特定技能外国人は、「印刷・製本分野特定技能1号評価試験」と日本語能力試験(N4以上)に合格しており、採用後すぐに現場で活躍することが期待できます。
特に、印刷・製本分野の技能実習2号を良好に修了した人材は試験が免除されるため、貴社での実務経験を持つ人材を継続して雇用することも可能です。
技能実習制度とは異なり、労働力の確保を目的としているため、採用の門戸が大きく広がります。
メリット | 具体的な内容 |
---|---|
即戦力人材の確保 | 技能試験と日本語試験の合格者であり、一定のスキルを持つ |
幅広い業務への従事 | 印刷・製本の主業務に加え、原材料の運搬や清掃、保守管理などの関連業務も可能 |
フルタイムでの直接雇用 | 正社員として直接雇用でき、長期的な戦力として育成しやすい |
技能実習より広い受入枠 | 建設・介護分野を除き、企業の常勤職員数を超えない範囲での受入が可能 |
これまで求人を出しても応募がなかった状況から、海外や国内在住の意欲ある外国人材にアプローチできるようになります。
特定技能制度の活用は、単なる人手不足の解消にとどまらず、将来の事業を担う多様な人材を確保し、企業の成長基盤を強化するための有効な一手となるでしょう。
特定技能外国人を雇用する企業には、彼らが日本で安定して働き、生活できるようサポートする義務があります。
中でも最も重要なのが、個々の外国人に合わせた「支援計画」を策定し、着実に実行することです。
支援計画には、入国前の事前ガイダンスから住居の確保、公的な手続きの補助まで、法令で定められた10項目の支援が含まれます。
また、もう一つの注意点として、特定技能外国人は同一の業務区分内であれば転職が自由である点も理解しておく必要があります。
支援の項目 | 具体的な内容 |
---|---|
事前ガイダンス | 雇用契約内容や日本での活動内容、手続きに関する情報提供 |
出入国時の送迎 | 空港などへの送迎 |
住居確保の支援 | 連帯保証人になる、社宅を提供するなどの支援 |
生活オリエンテーション | 金融機関の利用、医療、交通ルールなどの説明 |
公的手続きへの同行 | 社会保障や税、住民登録などの手続きの補助 |
日本語学習の機会提供 | 日本語教室の案内や学習教材の情報提供 |
相談・苦情への対応 | 職業生活、日常生活、社会生活に関する相談・苦情への対応 |
日本人との交流促進 | 地域のイベントや自治会などの案内、参加の補助 |
転職支援 | 解雇など会社都合で雇用契約を解除する場合の転職先探しの手伝い |
定期的な面談 | 支援責任者による定期的な面談の実施 |
これらの義務を負担に感じるかもしれませんが、手厚いサポートは外国人人材の不安を解消し、早期離職を防ぐことにつながります。
良好な職場環境を整えることが、結果として企業の安定した人材確保という大きなメリットになるのです。
特定技能外国人を受け入れる企業には、経済産業省が設置する「工業製品製造業分野特定技能協議会」への加入が義務付けられています。
この協議会は、制度の適正な運用と外国人材の保護を目的としており、受け入れ企業は必ず構成員とならなければなりません。
特に重要なのは加入のタイミングで、最初の特定技能外国人を受け入れた日から4ヶ月以内に加入手続きを完了させる必要があります。
加入手続きは、経済産業省のウェブサイトから行います。
協議会は、外国人材の受け入れに関する情報共有や、法令遵守のための重要な役割を担っています。
協議会の主な役割 | 概要 |
---|---|
構成員の連携強化 | 制度の適切な運用に必要な情報の共有 |
法令遵守の啓発 | 労働関係法令や社会保険関係法令などの周知徹底 |
人手不足状況の把握 | 特定地域への人材集中を防ぐための状況分析と共有 |
不正行為への対応 | 不正事案を防止し、健全な制度運用を確保するための協力 |
協議会への加入は、外国人材を保護し、制度を健全に運用するための企業の重要な責務です。
加入を怠ると新たな特定技能外国人の受け入れができなくなるため、期限内に必ず手続きを行いましょう。
特定技能外国人を受け入れるには、企業側で「支援計画」を作成し、実行する義務があります。
しかし、初めて外国人材を雇用する場合、何から手をつければ良いか分からず不安に思うかもしれません。
そこで頼りになるのが、企業に代わって外国人材の支援を包括的に行ってくれる、国(出入国在留管理庁)から認可された「登録支援機関」という存在です。
登録支援機関に支援業務を委託すると、採用前から日本での生活に慣れるまで、幅広いサポートを任せられます。
例えば、採用面接の設定から入国時の空港送迎、住居の確保、銀行口座の開設といった生活基盤の整備まで、専門的な知見をもとに対応してくれます。
委託費用として、外国人材1名あたり月額2万円から3万円程度が発生しますが、自社で全ての支援体制を整える負担を考えると、非常に心強いパートナーになるでしょう。
支援の種類 | 具体的な支援内容 |
---|---|
事前ガイダンス | 雇用契約内容や日本での活動内容、上陸・在留に関する手続きなどの情報提供 |
出入国時の送迎 | 空港と事業所または住居間の送迎 |
生活オリエンテーション | 日本での生活ルール、交通機関の利用方法、医療機関の受診方法、防災情報などの説明 |
住居確保・生活インフラ | 連帯保証人になる、社宅を提供するなど住居の確保、銀行口座開設や携帯電話契約の補助 |
公的手続きへの同行 | 役所での住民登録、社会保障・税に関する手続きなどへの同行 |
日本語学習の機会提供 | 日本語教室やオンライン学習教材の情報提供、入学手続きの補助 |
相談・苦情への対応 | 職業生活上、日常生活上、または社会生活上の相談や苦情への対応と助言 |
日本人との交流促進 | 自治会等の地域住民との交流の場や、日本の文化を理解するための行事などに関する情報提供 |
転職支援 | 外国人材から転職の相談を受けた場合、ハローワーク等の案内や推薦状の作成など |
定期的な面談 | 外国人材とその監督者との定期的な面談を実施し、労働基準法違反などがあれば行政機関へ通報 |
このように、登録支援機関は採用活動から入社後の定着までを一貫してサポートしてくれます。
自社ですべての支援を行うことが難しい場合は、外国人材と企業双方にとって良い結果を生むためにも、登録支援機関の活用を積極的に検討することが制度活用の鍵となります。
A. はい、可能です。
技能実習2号を良好に修了した外国人人材は、特定技能へ移行する際に必須となる技能評価試験と日本語能力試験が免除されます。
そのため、すでに技能実習生を受け入れている企業にとっては、スムーズに即戦力人材を確保できる大きなメリットがあります。
A. 2024年4月の制度開始時点では、印刷・製本分野は特定技能1号のみが対象です。
したがって、在留期間は通算で上限5年となります。
将来的に特定技能2号の対象分野に追加されるかについては現在検討が進められており、今後の政府の発表を注視していく必要があります。
A. はい、特定技能外国人に支払う報酬は、同じ業務に従事する日本人従業員と同等額以上に設定する義務があります。
これは法律で定められた要件であり、国籍を理由に給料や福利厚生などの条件面で不当な差別的取り扱いをすることは固く禁じられています。
A. 一般的に、採用が決定した際に支払う人材紹介手数料と、採用後に毎月発生する支援委託手数料の2種類が必要です。
支援委託手数料には、入社・入国前の事前ガイダンスや定期的な面談、各種行政手続きの支援など、法律で定められた10項目の義務的支援にかかるコストが含まれます。
A. 協議会への加入は、初めて特定技能外国人を受け入れてから4ヶ月以内に行う必要があります。
しかし、在留資格の申請手続きの際には、協議会に加入済みであることを証明する書類の提出が求められます。
そのため、実際には申請準備の段階で加入手続きを済ませておくことが望ましいです。
A. 印刷・製本分野の技能評価試験は、基本的な業務を安全に遂行できるかを判断するレベルです。
2024年度に新設された試験のため合格率のデータはまだありませんが、経済産業省が公開するサンプル問題を参考に勉強方法を検討してください。
実務経験者であれば、十分に合格が期待できます。
この記事では、印刷業で特定技能制度を活用し、外国人材を受け入れるための方法を解説しました。
特に、制度の利用が初めての方でも理解しやすいように、受け入れに必要な手続きの流れと詳しい費用の内訳を明らかにしています。
制度の活用に不安を感じていても、この記事で解説した流れに沿って一つずつ確認することで、採用計画は具体化できます。
まずは、自社が受け入れ企業の要件を満たしているか、チェックするところから始めてください。